高松地方裁判所 昭和46年(ワ)73号 判決 1972年7月31日
原告
川西国義
ほか一名
被告
高松市
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告川西国義に対し、金一五六万二、三五二円および内金一三一万二、三五二円に対する昭和四六年四月一一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二 被告らは、各自、原告川西ユミに対し、金一三一万二、三五二円および右金員に対する昭和四六年四月一一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
五 この判決は、原告らの勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告川西国義(以下原告国義という)に対し、各自金四五六万三、四四〇円及び内金三九六万三、四四〇円に対する昭和四六年四月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告川西ユミ(以下原告ユミという)に対し、各自金三九六万三、四四〇円及びこれに対する昭和四六年四月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする
との判決
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
昭和四六年一月一五日午後一時三〇分ごろ、高松市亀井町八番の四道路上において、訴外川口知己(以下川口という)が普通貨物自動車(車両番号香一り一三―八〇以下本件自動車という)を運転し、川西護(以下亡護という)が助手となつて、両名協力してごみ回収運搬作業に従事していたところ、亡譲が同車後部に未だ完全に乗車し終つていないのに川口が次のごみ収集場所へ移動せんとして同車を発進させたため、亡護を後部荷台から道路上へ転落させて、左急性硬膜外血腫、左側頭、頭頂部線状骨折、脳挫傷等の傷害を負わせ、よつて同日同人を死亡させた。
2 責任原因
(一) 被告有限会社社同協会(以下被告会社という)について
被告会社は本件自動車の保有者であるから、自賠法三条に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告杉田三郎(以下被告杉田という)について
被告会社は高松市内のごみ回収、運搬を業務とするものであり、被告杉田は、被告会社に代つて、右業務を監督する者であるところ、本件事故は被告会社の被傭者である川口が被告会社の右業務遂行中に亡護の乗車完了を確認せずに本件自動車を発進させた過失によつて発生したものである。したがつて被告杉田は、民法七一五条二項により本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。
(三) 被告高松市(以下被告市という)について
被告市は、被告会社に一定地域のごみ処理業務を継続的且つ専属的に委任しているものであり、本件自動車について運行利益を有するとともに、右委託業務遂行にあたつては、ごみの収集地区、運搬先、回収作業日、収集に使用する自動車の種類およびその使用方法等を指示監督をしているもので、運行支配も有しており、本件自動車を自己のために運行の用に供していたものである。従つて自賠法三条に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 損害
(一) 亡護の逸失利益
亡護は、本件事故当時満三一才の男子で、被告会社に雇傭されて平均月収金六万四、八〇〇円を得ていたが、本件事故により死亡しなければなお三二年間は働くことができ、その間毎月右程度の収入を得られたはずのところ、同人の一ケ月の必要経費は金二万四、八〇〇円であるからこれを右の収入より控除するとその純収入額は一ケ月金四万円となり、これを基礎として同人の三二年間の逸失利益の現在価をホフマン式計算により求めると
(40,000円(純収入月額)×12×18.806(32年のホフマン係数)=9,026,880円)
金九〇二万六、八八〇円となる。
(二) 亡護の慰謝料
亡護の慰謝料は金三〇〇万円が相当である。
(三) 原告国義、同ユミは、亡護の実父母であるから、亡護の死亡により、右(一)(逸失利益)(二)(慰謝料)の損害賠償請求権の各二分の一にあたる金六〇一万三、四四〇円をそれぞれ相続によつて承継取得した。
(四) 原告らの慰謝料
原告らは、亡護の死亡により甚大な精神的苦痛をこうむつたが、右苦痛に対する慰謝料の額は各金五〇万円をもつて相当とする。
(五) 損害の填補
原告らは、本件事故に関し自賠責保険から金五〇〇万円を受領し、また被告杉田より葬式費用として金一〇万円の支払を受けているので、これらを原告らの右各請求権に各金二五五万円宛それぞれ充当した。
(六) 弁護士費用
被告らは、原告らに対し、右各損害賠償債務を任意に履行しないので、原告らはこの請求のため弁護士である本件原告ら訴訟代理人両名に本件訴訟を委任し、原告国義において、着手金一〇万円を支払い、さらに報酬として金五〇万円の支払いを約している。
(七) 結論
よつて、被告らに対し、原告国義は、四五六万三、四四〇円、及び内金三九六万三、四四〇円(弁護士費用を除く)に対する本件訴状が被告に送達された日の後である昭和四六年四月一一日以降支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、原告ユミは三九六万三、四四〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで右同率の遅延損害金の各支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告会社および同杉田の認否
(一) 請求原因1の事実のうち、川口および亡護がごみ回収作業に従事し、川口が本件自動車を運転していたこと、原告主張の日時・場所において事故が発生し、それによつて亡護が死亡したことは認めるが本件事故の態様は否認する。亡護の傷害の部位・程度は不知
(二) 同2(一)の事実は認める。同2(二)の事実のうち川口が被告会社の被傭者であること、本件事故が被告会社の業務執行中に発生したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 同3の事実中、(三)の亡護と原告らの身分関係および(五)の損害填補は認めるが、(一)の平均月収額、就労可能年数および(二)、(四)、(六)はいずれも争う。
その余の事実は不知
2 被告市の認否
(一) 請求原因1の事実のうち、原告主張の日に亡護が事故によつて死亡したことは認めるが、その余はすべて不知
(二) 同2(三)の事実中、被告市が被告会社に対し、ごみ回収作業日、回収地区を指示して同社にごみ収集を委託していたことは認めるが、その余はすべて否認する。
(三) 同3の事実はすべて争う。
三 抗弁
1 被告会社の抗弁
(一) 免責の抗弁
(1) 本件自動車は普通貨物自動車(積載量四屯)であるが、ごみ収集用自動車としての設備、改装を施されている車両であつて、ごみ箱吊上のためのクレーンが設置されているほか後部荷台部分には周囲に高さ一米三七センチの鉄板枠が取り付けられている。そしてごみ収集作業の手順は次のとおりである。
自動車運転手は、ごみ収集場所に自動車を停車させると運転席から下車し、運転台と後部荷台の中間に設置されているクレーンのハンドルを操作してクレーン腕を荷台鉄板枠外に出し、ワイヤーを伸ばしてその先端にある滑車の先でごみ箱を吊り上げ、クレーン腕を移動させて自動車後部荷台上にごみ箱をもつてゆく。そして、荷台上で待機している助手が同箱底蓋を開いてごみを落下させたのち、運転手は再びクレーン腕を移動させてごみ箱を所定の位置に戻し、ごみ箱よりクレーン滑車をはずして、ごみ箱底蓋の閉鎖を確認したうえ、クレーン腕を荷台上方に戻してから、自動車運転席に乗り込み、クラクシヨンを吹鳴して助手に発車の合図をし、次のごみ収集場所へと発進する。
一方助手は、ごみ箱より荷台上にごみが落とされると直ちに三つ鍬でごみをかきならし、ごみの積載を平均化するが、運転手がごみ箱底蓋の閉鎖を確認し終る頃には、右のごみかきならし作業を終え、クレーン腕が荷台上に戻ると同時に、クレーン腕先端に取りつけてある把手を把持して車の発進に備えることになつている。
(2) 川口は、本件事故当時本件自動車を発進させるにあたつて、運転席からは前記荷台枠のため亡護の姿が死角となつて確認できないので、運転席に乗り込んだ後、クラクシヨンを吹鳴して荷台上の亡護に発進を知らせてから自動車を発進させたものであつてその行動に過失はなく、また被告会社も、本件自動車の運行に関し従業員に対して注事義務を尽しており過失はない。
(3) 亡護は前記の作業手順に従つて、クレーン腕が荷台上に返されればそれ以降は自動車が発車態勢にあるのであるから、荷台上のごみかきならし作業を直ちに中止し、後記鉄製握りを把持する等して発車に備えるよう十分注意しなければならないのにかかわらず日頃の習慣に反してこの注意を怠り荷台後部付近のごみの上に茫然佇立していたため、自動車の発進により重心を失い路上に転落したもので、本件事故は専ら亡護の過失によるものである。
(4) 本件事故当時本件自動車には構造上の欠陥、機能上の障害はない。
本件自動車には、発車時および進行中の荷台上に居る助手の安全を図るため、クレーン腕の手元に一箇所、先端に二箇所、荷台鉄板枠右(車の進行方向に向つて―以下同じ)前部角に二箇所、左角に一箇所いずれもかすがい状の鉄製握りを取り付けておりこれを把持することによつて身体の動揺転落の防止を図つている。
(5) よつて被告会社は自賠法三条但書により免責される。
(二) 過失相殺の抗弁
かりに被告会社に運行供用者責任が認められるとしても、本件事故発生については前記のとおり亡護の過失が大きく寄与しているから、賠償額の算定につき、これを斟酌すべきであり、その過失割合は亡護を八以上、川口を二未満とするのが相当である。
2 被告杉田の抗弁
(一) 免責の抗弁
かりに、被告杉田が被告会社に代つて事業を監督する者であるとしても、被告杉田は川口を含めた被告会社の従業員全員に対し前記被告会社の抗弁事実(一)(1)ないし(4)記載の本件自動車の設備構造、ゴミ収集作業の手順、自動車を発進させる場合の運転手の執るべき措置等を説明し事故防止について注意を与えていたものであつて、右川口の選任並びにその業務の監督について相当の注意を為している。
よつて民法七一五条一項但書により免責されるべきである。
(二) 過失相殺
被告会社の抗弁と同旨
四 抗弁に対する認否
抗弁事実はいずれも争う。
川口は亡護がごみのかきならし作業を終了していたか否かを確認せず、また発進の合図もせず漫然本件自動車を発進させたもので、安全運行義務を怠つている。本件自動車には、その機能上及び作業の性質上三名の乗務員(運転手、荷台上の作業者、助手兼クレーン操作者)が必要であるのに、二名しか乗り込ませておらず、また該自動車は、ごみ処理用として地上から車体上部迄二・六メートルあるが、ごみの満載時には被告会社の指示で車体の上に更に高さ六〇センチ余のベニヤ板を補助枠として使用することになつており本件事故の際も右ベニヤ板を使用し本来の車体より三〇センチ程高くごみを積載していたため荷台鉄板枠にとりつけてある把手は現実には使用できない状態にあつた。これらはいずれも被告会社が使用者としての安全操業をさせる義務に違反したものである。
本件自動車には構造上の欠陥あるいは機能上の障害がある。
即ち、本件自動車は、前記のとおり高さ一・三米の特製鉄板枠を備えているため、運転席から荷台上の作業状況を見通すことができないのであるから、荷台上の作業員に発車を知らせる発進合図用のベルを設置する等の必要があつたのにこれを怠つていた。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
1 請求原因第1項のうち、昭和四六年一月一五日、亡護が本件事件によつて死亡したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、同日午後一時三〇分ごろ、高松市亀井町八番の四先道路上において、川口と亡護は二人一組となり、ごみ回収作業に従事していたこと、川口が同所での作業を終え、次のごみ収集場所へ移動すべく本件自動車を発進させたところ、後部荷台上に居た亡護が、右発進によつて体の重心を失い地上に転落したこと、亡護は、右転落により、左急性硬膜外血腫等の傷害を受け、よつて同日高松赤十字病院において死亡したことが認められる。
二 責任原因
1 被告会社の運行供用者責任
被告会社が、本件自動車の保有者であることは当事者に争いがない。
ところで、被告会社は自賠法三条但書による免責を主張するのでこの点について判断する。
〔証拠略〕を総合すると本件自動車は、ごみ回収用の特殊な自動車であつて、多量のごみの積載を可能にするため後部荷台部分の周囲に高さ一・三米の鉄板枠が取り付けられており、地上から右枠の先端までの高さが二・三九米あること、したがつて自動車運転席から後部荷台上の作業員の状況を見通すことは困難であること、更に右自動車には運転台と後部荷台との間に、ごみ箱吊上げのためのクレーンが設置されており、発車時および進行中における荷台上の作業員の安全を図るため、右クレーン腕の先端に二個、右前方角の荷台鉄枠上部に二個、同じく左前方に一個、それぞれかすがい状の把手が備えつけられていること、本件ごみ収集作業は、通常被告会社及び同杉田主張の順序で行なわれること、ところで本件事故当時、既に相当量のごみを回収し終えており、右鉄板枠だけではごみが飛散する程の積載量に至つていたため、補助枠としてベニヤ板を使用し、それが鉄板枠より約三〇センチ位高くはみでている状態(地上からの高さは約二・六九米となる)であつたこと、そのため荷台上の作業員としては、自動車の発進にあたり、右鉄板枠に取り付けてある把手を把持することが困難であつたこと、事故当時川口が本件自動車を運転するとともにクレーンを操作し、亡護が荷台の上でごみのかきならし作業を行つていたが、川口は右作業手順に従つて、ごみ収集作業を行い、ごみ箱底蓋の閉鎖を確認して運転席に戻り、荷台上の亡護に発進の合図をしないまま、自動車を発進させたため、前記把手を握る等して発進に備える態勢をとつていなかつた亡護が地上に転落したこと。以上の各事実が認められる。
〔証拠略〕中右認定に反する部分は前掲各証拠に照してにわかに信用することはできず、他にこれを覆えすに足る証拠はない。そして以上認定の事実関係によると、本件自動車を使用しての右作業形態および事故当時におけるごみの積載状態の下においては、自動車運転手としては、荷台上で助手がごみをかきならす作業をしており、そのまま漫然発進すれば、同人が荷台上より転落することが十分予想されるのであるから、発進直前助手が作業を中止して発進に備えた体勢をとつていることを確認すべき注意義務があるものというべきである。しかるに川口は右安全確認義務に違反して本件自動車を発車させ、その結果本件事故が発生したのであるから、川口が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたとは認め難い。そうすると、その余の点について判断するまでもなく被告会社の免責の主張は失当であり、被告会社は本件自動車の運行供用者として、本件事故により亡護の生命を害したことによる損害賠償の責任を免れない。
2 被告杉田の代理監督者責任
川口が被告会社の従業員であり、被告会社の事業の執行中に本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、右事故が川口の過失により発生したことは前認定のとおりであつて、〔証拠略〕によれば、被告会社は従業員五、六名、所有車両二台の小規模な会社で、被告杉田は同社の代表取締役として毎日少なくとも午前中は同社に出勤し、本件自動車を含む車両の運行管理や作業方法等事業全般について被告会社に代つて指示監督をしていたことが認められるから被告杉田は被告会社に代つてその事業を監督する地位にあつたものというべきである。そして本件全証拠によつても、被告杉田が川口の選任および事業監督につき相当の注意を為したことは認められないから、その旨の免責の抗弁は採用できず、同被告は、民法七一五条二項により、本件事故による損害を賠償する責任がある。
3 被告市の運行供用者責任
〔証拠略〕によれば、被告会社は、昭和四三年三月ごろ設立され、当初土建資材の販売を行なつていたが、その後、業績が思わしくなく、昭和四五年五月被告市と高松市内におけるごみ処理業務の委託契約を結んで継続的に右業務に従事することとし、同年一〇月ごろからは、専ら右業務を営んでいること、被告会社の所有車両は本件自動車を含めて二台であり、従業員は五ないし六名であつて、すべてが右のごみ処理業務に従事していること、被告市は、右委託契約において、被告会社に対し、委託業務の再委託を禁止し、本件自動車を含めた使用車両の整備につき、被告市の指示するごみの運搬に必要な装備を要求し、ごみの収集場所および運搬先、作業日時についての指示を行い、作業内容を検査し、毎日のごみ収集状況の報告、作業日報の作成記入およびごみの収集ができない等の異常ある場合の報告を、それぞれ義務づけ、その他被告市の職員から業務を遂行するうえに必要な事項を指示された場合はこれに従わなければならないこととする等の監督的規定を種々設けて、被告会社の業務執行を規制しているが、現実にも既ね右の通り被告市による監督、規制がなされていたのであつて、被告会社が収集したごみを焼却場へ運搬した際被告市の係職員に収集状況を逐一報告させるとともに、被告市のパトロールカーによる見廻りがなされ、又市民の苦情により収集もれが判明した場合には、直ちに被告会社に対して事情説明を求める等して現実に作業が十分に遂行されているか否かを監督していたこと、川口は被告会社の従業員として、同会社の業務に従事し、ごみを積んで本件自動車を運行中、本件事故を起したこと、以上の事実が夫々認められ、これに反する証拠はない。そして右認定事実によれば被告市は被告会社に対する直接、間接の指揮監督権を有し被告会社を自己の支配下においてその社会的活動の範囲を拡張しているとみることができるのであるから被告市は、被告会社が使用していた本件自動車についても、それがごみ収集運搬業務の執行として被告会社の従業員により運行されている範囲内においては、その運行による利益を有し運行に対する支配をも有していたとみるべきである。そうとすれば、本件事故が被告会社の従業員により被告会社の業務執行中に惹起したものであること前認定の通りである以上、被告市は当時本件自動車を自己のために運行の用に供していたものというべきであり自賠法三条による責任を免れないものである。
三 損害
1 亡護の逸失利益
〔証拠略〕を総合すれば、亡護は昭和一五年二月一一日生まれ(事故当時満三〇歳)の健康な独身の男子で両親である原告らと同居し、昭和四五年一一月ごろ、被告会社にごみ収集業務の助手として就職し、月六万四、八〇〇円の収入を得ていたことが認められ、同人の生活費は右認定の収入額および家族構成等を考慮しても原告らの主張する月二万四、八〇〇円を上廻ることはないものと推認されるから、同人の月間純利益は金四万円となる。そして亡護の年令・職種等に照らすと同人は本件事故にあわなければなお少くとも三三年間は右と同程度の収入を得たと推認できるから、ホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除して現価を求めると九二〇万七、八四〇円となる。
2 過失相殺
前記二1で認定したとおり、本件事故については、運転手川口の過失が大きく寄与しているのであるが、前記認定のごみ収集作業の順序および本件事故当時のごみの積載状態を考えると、荷台上の作業員としても、クレーンがごみ箱を地上にかえした後車体上に戻つた段階では車の発進に備えてクレーン先端の把手を把持する等の方法によつて車の発進による転落から身を守る措置を講ずべき注意義務があるというべきである。然るに亡護はクレーンが右の如く車体上に戻つた段階に於ても必要な自衛措置を執らなかつた為に遂に本件事故が発生したものであつて、以上の点を考慮すると本件事故に於ける過失の割合は川口六、亡護四と認めるのが相当である。
そこで前項の亡護の逸失利益を右割合に応じて過失相殺すると、被告らの賠償すべき額は金五五二万四、七〇四円となる。
3 亡護の慰謝料
本件事故の態様、亡護の過失その他本件弁論にあらわれた諸般の事情を勘案すると亡護の慰謝料は金一二〇万円が相当である。
4 原告らの相続
原告らが亡護の両親であり亡護には他に相続人がないことは〔証拠略〕によりこれを認めることができるから原告らは、亡護の有した右2・3の合計金六七二万四、七〇四円の損害賠償請求権を二分の一宛(金三三六万二、三五二円)相続したものである。
5 原告らの慰謝料
〔証拠略〕によれば原告らは本件事故により息子を失ない多大の精神的苦痛を受けたことが認められ、右の事実と本件事故の態様、その他本件証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると、原告らの慰謝料額は各金五〇万円と認めるのが相当である。
6 損害の填補
本件事故による損害に関し、原告らが自賠責保険より金五〇〇万円被告杉田より金一〇万円を受領したことは原告らの自陳するところであり、〔証拠略〕によれば原告らはこれを各自二五五万円ずつ分配したことが認められる。
そうすると被告らの賠償すべき金額の残額は、原告らにつき各金一三一万二、三五二円となることが明らかである。
7 弁護士費用
以上により、原告らは被告らに対し各自、前項後段記載の金額の損害賠償請求権を有するものであるところ、弁論の全趣旨によれば被告らがその任意の弁済に応じないことは明らかであり、〔証拠略〕によると原告らは弁護士である本件原告訴訟代理人両名に本件訴訟を委任し、原告国義において、着手金として金一〇万円を支払い、他に成功報酬として勝訴額の一割を支払う約束をしたことが認められるが、本訴にあらわれた一切の事情を考慮すると右弁護士費用中前記認容額の約一割に相当する金二五万円の限度で本件事故と相当因果関係のある原告国義の損害と認めるのが相当である。
四 結論
よつて被告らは、各自原告国義に対し金一五六万二、三五二円および弁護士費用を除く内金一三一万二、三五二円に対する本件訴状が被告らに送達された日の後であること記録上明らかな昭和四六年四月一一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告ユミに対し金一三一万二、三五二円および右金員に対する右同日から支払ずみに至るまで右同率の遅延損害金の支払義務があるから、原告らの本訴請求は右限度で正当として認容し、その余は失当であるから各棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 林義一 磯部有宏 市川頼明)